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クリーンな未来に向けた算定手法

WPP傘下のメディアエージェンシーであるグループエム(GroupM)では、メディアサプライチェーン全体の排出量を測定する手法を開発し、広告業界の脱炭素化の加速を目指しています。

2022年1月、アントニオ・グテーレス国連事務総長は、気候変動との戦いにおいて「緊急事態モード」に入る以外にもう選択肢はないと世界各国に向けて宣言しました。気候変動に関するパリ協定で示されたように、世界の気温上昇を産業革命以前に比べて1.5℃以内に抑えるには炭素排出量削減目標を達成する必要がありますが、事務総長は、この目標から世界は「大きく外れている」と指摘しています。予想もできない事態が起こるのを防ぐには、今すぐ行動しなければなりません。

一方で、温室効果ガス(GHG)排出量など気候への影響について正確に報告する義務を大幅に厳格化する法律が、世界中で制定されています。良い企業かどうかの判断基準として、広告主(クライアント)、従業員、投資家が気候関連のリスクとチャンスを合わせて考えるようになれば、今後のメディア投資は、脱炭素の取り組みを進め、その進捗状況を透明性を持って公表する媒体社とプラットフォームに集中することになるでしょう。

これは悲観的なニュースかもしれませんが、楽観的に考えられる点もあります。行動しないリスクがこれまでより明確になったことで、広告業界で変革に対する情熱が高まりつつあります。脅威が存在することを意思決定者に理解させるという厄介な仕事は終わりました。これからはただ、どうすれば最速で変革を起こせるかを決めればいいのです。

メディア配信のさまざまな選択肢の中で、今後はそのカーボンフットプリントが比較され、クライアントの投資先決定に影響を与えることになるでしょう。この傾向はすでに現れており、今後3年間でますます顕著になると予想されます。あらゆる企業において、絶対的排出量の削減とネットゼロ公約を実現することに対する緊急性と財務的必然性が高まっているためです。こうした理由から私たちは、サプライチェーンの脱炭素化を考慮した投資決定を可能にするため、研究、検証、事業に投資を行っています。

WPPは、自社の直接的な事業活動(スコープ1と2)については2025年までに、バリューチェーン(スコープ3)については2030年までに、排出量ネットゼロを達成することを宣言しています。この公約には、グループエムがクライアントに代わり購入するメディアの排出量(合計でWPPの総排出量の50%超)も含まれます。これらの目標は、パリ協定に沿い、また「科学に基づく目標設定イニシアチブ」によって立証された炭素削減目標を根拠に設定されています。

近年、広告主、持株会社、代理店、協会、作業部会などがそれぞれに自らのカーボンフットプリントの削減を宣言したり、他者の削減を手助けするリソースを提供したりしています。国際的な動きとしては、広告業界が協力してAd Net Zeroを立ち上げました。これは、業界全体で広告の開発、制作、展開による炭素影響を2030年末までにネットゼロに削減することを目指す取り組みであり、変革を実現させることを約束しています。

また、業界全体が連携して立ち上げたAdGreenは、廃棄物ゼロ・炭素ゼロの達成を目指し、廃棄物や炭素の影響を測定・理解するためのツール、リソース、研修を開発しています。米国では、全米広告主協会が「サステナビリティ・コレクティブ」という取り組みを通じ、サステナブルな活動を促進するコンテンツ、枠組み、リソースを提供しています。

この複雑かつ急速に変化する領域において、広告業界は誠意を持って努力しています。しかし現実には、これまでの業界の取り組みは削減ではなくオフセットに重点が置かれ、適切な測定手法も十分に確立されていません。現在発表されている公約は、得てして一貫性のない基準値に基づいているため企業間での比較ができず、メディアサプライチェーン全体での絶対的削減の推進に重きをおいているものではありません。

現在、メディアの炭素排出量を算定する方法は複数存在しますが、それらは一貫性のないパラメーターを用いているため、排出量をチャネル間で比較することはできません。また、使用するデータや計算方法がばらばらなために、非常に大まかな推定やオフセットが行われています。

ベンダーのエネルギー消費データ(入手不能な場合は二次データとの組み合わせ)を重視し、チャネルのバリューチェーン全体を通したキャンペーンの排出量を一貫性を持って報告できるような業界主導の枠組みや算定手法はまだ公表されていません。

要するに、各企業がばらばらに公約を出していること、バリューチェーンのパラメーターに一貫性がないこと、プラットフォームや媒体社の個別データではなく一般公開データに依存していること、排出量削減ではなく推定やオフセットを重視していることなどが重なった結果、広告業界は気候目標を許容可能な時期までに達成することが難しい状況にあるのです。

WPPは、世界の広告による炭素排出量の測定・削減に活用できるテクノロジーや基準の開発に取り組んでいます。その一環として、GroupMは炭素測定の独立専門家と協力し、メディアサプライチェーン全体の排出量を正確に測定する手法の開発を進めています。こうした手法があれば、メディア配信による排出量を削減することに的を絞った介入が可能になります。

メディアチャネルのライフサイクル評価手法が完成すれば、新たな炭素算定手法の開発が可能になります。これは、絶対的な排出量削減目標を設定し、業界関係者がベンダーレベルのデータをできる限り取り込みたいと思えば、それができるようになります。とりわけ注目すべき効果を、以下で説明します(ここに挙げる効果がすべてというわけではなく、これが「結論」でもありません)。

データの粒度が高まることで、クライアントはメディア投資をより排出量の少ない媒体社とプラットフォームに移行させることができます。その結果、メディアサプライチェーン全体で行動変容が起こり、脱炭素化が促進されます。

その最初のステップは、業界全体で統一した温室効果ガスプロトコル(GHGP)の適用に合意することです。これにより、既存の計算方法と比較して計上される炭素量が拡大し、透明性の高い手法に基づく正確な炭素会計が可能になります。

業界全体で統一したGHGPを適用すれば、媒体社とプラットフォームに要求するデータセットが確定するため、両者の報告負担が減り、彼ら自身による排出量削減努力が促進されます。サプライチェーンの排出量管理におけるデータの質は、直接コントロールできないことから大きな課題といえます。

気候問題がさらに深刻化している現状と、それに立ち向かう業界の取り組み状況を踏まえると、目標達成には以下のいずれ劣らず重要な3つの柱を基に行動する必要があります。

  1. 推定やオフセットだけでなく、排出量の早急な削減を実現する
  2. 新たな法律の制定を待たずに、実効性と実現性の高いソリューションを見付ける
  3. より広く、より速く行動するための業界基盤を築く

GroupMは、メディアプランニングのプロセスの一部として炭素排出量を考慮できるようにするため、ツールやテクノロジーの開発に取り組んでいます。各種メディア配信オプションのカーボンフットプリントによる比較がクライアントの投資先選択に与える影響は、今後ますます高まると私たちは確信しています。

新たな手法、基準、普及

私たちは報告書において、広告によるGHG排出量を評価するための手法と基準について詳細に説明しており、GroupMだけでなく業界全体が利用できる炭素算定手法の開発に活用いただけます。私たちの知る限り、これは広告キャンペーンの炭素排出量をチャネルやベンダーごとに総合評価することを可能にする初の試みであり、標準化の早急な達成が求められる中、この評価基準が業界の共通基盤となることを願っています。

私たちは、メディアによる排出量を算定するための一貫性と緻密性のある手法を開発するにあたり、温室効果ガスプロトコルの「製品ライフサイクル算定・報告基準」との調和を図りました。この基準を用いた理由は、メディア配信や広告キャンペーンは「製品」であり、広告のバリューチェーンに関連する排出量を把握するには、広告の展開に寄与する各チャネルの排出量ライフサイクルを評価することが不可欠だからです。

目の前のこの課題に立ち向かうには、協力して、すぐにでも標準化の方法を見出さなければなりません。気候そのものだけでなく、クライアント、投資家、従業員、消費者の間で高まる不作為への苛立ちも限界に来ています。2022年には、業界のため、そして地球のために皆で団結する機会を得ることができました。しかし、今この状況下では直ちに行動することが求められています。

WPPとGroupMは、この取り組みの次の段階に入っています。GroupMが共同創設した「責任あるメディアに向けた世界同盟」の場合と同じように、私たちは、業界全体がこの取り組みを進化させるべく行動してくれることを歓迎し推進しています。こうしたコラボレーションが誠実に、大きな遅れなく実現されれば、今ある手法が最終的により良いものになると確信しています。また私たちは、業界団体やAd Net Zeroと協力し、業界共通のソリューションをめぐる協調体制を作り上げることを約束します。さらに、メディアを含む市場が科学に基づく目標設定にコミットすれば、業界の脱炭素化は大幅に加速するのです。

目標を達成するには、サプライチェーン全体での行動が非常に重要なため、最新かつ透明性の高いベンダーデータが不可欠となります。

GroupMは、ベンダーと協力し、サプライチェーン全体のデータ収集の慣行を刷新するとともに、排出量データの共有を促進すべく第三者機関との契約を更新する予定です。

そこで私たちは、2022年第4四半期に炭素算定手法の最新版を策定することを目指します。データの質の進化に伴い、算定手法を引き続き改善していきます。小規模組織や専門組織には、こうした基準をすぐに全面的に採用したり必要なデータを提供したりするためのリソースを持たないところもありますが、現在私たちは、そのような組織も含め、あらゆるパートナーを支援するため研修やガイダンスを作成しています。

この計画を実行し、メディアの脱炭素化を促進するにはやるべきことがたくさんありますが、GroupMとWPPは、この使命を果たすことに100%コミットします。この最も重要で、最も差し迫った課題に関する共通の基盤を見出すため、私たちは業界のあらゆるメンバーと協力していきたいと考えています。

求められるアクション

  1. 排出量を可視化することでオフセットからいち早く脱却し、CO2e(二酸化炭素換算数値)の削減につながるアクションを始める
  2. より質の高い媒体社から、より少数のより良い広告を購入する
  3. サプライチェーンの複雑さを解消する。仲介者の削減とテクノロジーの簡素化を進め、排出量を減らす
  4. クリエイティブ資産の規模や配信手法を縮小する(ストリーミングか広告配信かを絞る)
  5. 大幅な脱炭素化を定量的に提示している媒体社やプラットフォームに投資先を移す準備を始める
 

OLLIE JOYCE AND KRYSTAL OLIVIERI

Mindshare and GroupM

published on

13 April 2023

Category

Technology & data

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